明治の初めんころの話じゃ。猟師が囲炉裏端で鉄砲ん弾ば作っとる傍で、猫がジーッと弾の出来上っとば数えとったげな。猟師は、胸んうちで「こん野郎、俺が弾を作っとばいちいち数えとるばい」と気づき、「よし、よし、十四発も作ればよかじゃろ。明日の晩な猪待ち行くか」と、わざと猫に聞こゆるごつ独り言。
翌日、猟師は夕日がチロチロと山の木立ちの中に沈むころ、いつも行きつけの狩り場に着いた。風向きば考えっ、大急ぎで猪棚ば作った。昔は今んごつ狩り犬の飼育技術が進んどらんじゃったから良か狩り犬ば持っとる猟師は少なかったで、犬で追いつめて射止むっとじゃなか、猪が体ば地面にこすりつくる「ぬたうち場」ば見つけつ、傍に猪棚ば作って待ち伏せし、ぬたうちに来た猪ば直接ねらい撃ちしおったたい。
丑三っ時(真夜中、午前二時頃)、猟師が猪待ちしとったら、目ん前に突如ギラギラと目を光らせた怪物が現われた。猟師は「来たな」と身構えたが、よう見るとわが家ん嫁じゃなかな。
「じいさん、じいさん、お母さんが急病で苦しんどらっで、早よ帰ってくれんな」と言うたが、猟師は(嫁がここン狩り場ば知っとるはずはなか、こやつは化け猫に違いなか)と咄嗟に気づき、「よしッ!!嫁でん構わん。真夜中にこげん山奥に来る奴ぁ撃ち殺してやるわい!!」とわめいて鉄砲ば構えると、途端に正体を現わした化け猫は、ギャオーッと猫特有のうなり声ばあげて身構えた。猟師はすかさず猫ん眉間ば狙い撃ちした。するとカチンち金物に当たる音がした。猟師は続けざまに十四発を撃ってしもうた。撃った弾数ば数えとった化け猫は、猟師が弾ば使い果たしたもんと思いこみ、かぶっとった鉄の鍋ばほたい投げて襲いかかろうちした。途端に心臓目がけて撃った弾に射抜かれた化け猫は、血反吐ば吐いて死んでしもうた。
前ん晩に猟師は猫に気づかれんごつ、鉄砲ん弾ば一発余分に作って弾込めしておいた。そこまで気づかんじゃった猫は油断したっが一巻の終わりじゃった。
猟師の機転で命拾いばしたちゅう話たい。
(注) ほたい投げ……放るようにして投げ捨てること。
水俣市史「民族・人物編」より