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みなまたの民話「谷道のこっけ狸」

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 大関の山に赤い夕日が山肌ば染め、やがて鶴の村に灯がともりはじめる日暮れどき、今日も無事に山仕事ば終えて家路を急ぐ一人の若者がおった。手に持った袋の中の雑魚ば噛み噛み坂道ば登って行くと、ちょうど谷道にさしかかったときにゃ辺りは薄暗うなり、誰彼の見分けがつかんぐらいじゃった。と、そこへ「兄ちゃん、迎えに来たばい。どう、そん袋は俺やらんな、持って行くで」と絣の着物ば着た弟が道の真中に立っとった。兄「いんにやよか、軽かで」。弟「そいばってん、山仕事でだれたちがね」。兄「なんのなんの、袋いっちょぐらい何ちゆうこたなか」。弟「せっかく俺が迎えにきたとこれ……」。
 弟はしゃいがもっでん雑魚ん入った袋ば持たせろちいう。そんとき、兄は明こ暗ん薄明かりのなかで、弟の絣模様があんまりはっきり見ゆっとに気がついた。
 「こんわろが、俺ばだまくらかす気か」と足許にあった小石ば拾って投げつけた。
 途端に弟は日当ン村ん人の飼い犬の「クマ」になって、一目散に山ん中へ逃げこうだげな。
 兄は、大急ぎで家に戻り着くと、弟に、兄「わや、俺ば迎えに来たな?」弟「いんにゃ、なんの迎えに行こん、今さっきまで畑におったっじゃもね」と怪訝な顔して兄ば見た。兄は「ははぁ、やっぱあれは、こっけ狸の仕業じゃったばい」と、あとで弟たちにさっきあったこつば一部始終話して聞かせたげなたい。
 こん谷道のこっけ狸と二の坂んこっけ狸は村ん者がよう騙されるもんじゃっで、一番怖がっとったちゅう話たい。
 (注) しゃいがもっでん……無理やりに、遮二無二、強引に
     明こ暗ん……黄昏、夕方。
     わや……久木野方言で、同僚以下の者への呼びかけ。水俣方面では「わら」
     こっけ狸……年老いた狸で、長い経験をつんでずるがしこい古狸

 

水俣市史「民族・人物編」より


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