ある日、狩人が茂道山に来て狸罠をそこかしこに仕掛けて道に出たところに、巡査さんがサーベル(西洋風の長刀)の音をカチャカチャさせながら近づいてきた。狩人は「しまった」と思ったがもう遅い。暗くなるまで山に隠れていればよかったと思いながらも、「こんにちわ」と挨拶をして頭をペコンと下げた。巡査は、「おいこら、お前はご法度(法律違反)の破裂玉ば狸に喰わせて捕っとるそうじゃが止めろ、止めんごたれば逮捕すっぞぉ、今度まじゃ見逃しとく」と言った。
狩人は「済みません、許して下さい」と言って何度も頭を下げた。
巡査は山道を村の方へ下って行ったので、狩人は、今度までは許すと言わしたでと思いながら、罠をそのままにして帰った。
そして翌朝、狩人は罠のところに行ってみた。
すると、餌に使った狸の大好物の焼鼠を喰べて破裂したのか、焼鼠と一緒に一匹の大きな狸が腰に蔓の帯を締め、枯木の枝を一本差したまま、顎を打ち外して死んでいたという話じゃった。
水俣市史「民族・人物編」より