令和7年2月1日(土曜日)、水俣環境アカデミアは市民公開講座「江戸時代 水俣鉄砲隊の役割とそのルーツ ―「天下泰平」の実現と水俣― 」を開催し、水俣市内外から39人が参加しました。

講師は、熊本大学永青文庫研究センター長の、稲葉継陽教授です。

水俣は薩摩・球磨・天草・熊本の四領の境目という特殊性があることから重要な場所だと考えられており、戦国時代までは頻繁に戦場となっていました。そんな水俣には、国境を警護する地域の住民たちによる鉄砲隊「水俣手永(てなが)札筒(ふだづつ)/御郡筒(おごおりづつ)」衆が存在していたそうです。
そのルーツはどこにあり、どういう役割を果たしたのか、そして江戸時代の200年以上の長期平和「天下泰平」を支えた真の力とは…。
昨年の夏、熊本大学文学部日本史学研究室の古文書実習で行われた「深水家文書」(水俣市教育委員会所蔵)の調査で発見された、非常に貴重な古文書等を史料として用いながら、明らかにされていきました。
講演の途中には「古文書解読体験」も。
豊臣秀吉朱印状(水俣市教育委員会所蔵文書)が、先生の丁寧な解説によって読み解かれていきました。

秀吉は、豊臣政権の九州出兵(平定)において島津氏から水俣・津奈木を奪取した際、一時的に百姓たちの武器を没収し武装解除しましたが、島津氏の降参後に佐敷でこの朱印状を発給、百姓たちにそれらの武器をすべて返還するよう指示しました。
水俣鉄砲隊のルーツがわかる古文書のひとつです。

稲葉先生「この中身、すごいと思いませんか。これはとんでもない朱印状でありまして、水俣の宝だと思います」

一般的に、「刀狩り」や「兵農分離」などによって、百姓は鉄砲などの武器を持っていないというイメージがありますが、実際は、このように鉄砲を持つことが公式に認められていたところもあったのです。
しかし、百姓たちは鉄砲を持っていても、武士たちやもめごとの相手に対して銃口を向けることはなく、200年にわたって長期平和が維持されたのでした。
「江戸時代の『天下泰平』を支えた本当の力はなにか、それを理解したい、というのが根本的な研究テーマです」と、稲葉先生は言います。
「簡単に答えが出るわけではありませんが、少なくとも、我々の先祖に当たる地域住民の、武器を持ちながらも200年の非戦を実現した実績なしには江戸時代の長期平和を理解することができないと思われます。もう少し仮説を進めれば、地域住民が『武器は持てどもむやみに人に向けない』というモラルを持っていなければ、これだけの鉄砲を管理できません。そこのところを解明していきたいと思っています」

講演前日には、実際に薩摩との「境目」である神川地域を訪れたという稲葉先生。
最後に、
「おそらく神川の住民でありながら薩摩の情報を報告する役目を持つ住民もいたことがわかっています。肥後と薩摩の間に立って情報を伝えながら、お互い疑心暗鬼にならないように、また、間違った認識で幕府の政治が混乱し、戦国時代に逆戻りしないよう、支えていたのも地域住民であった…そうした面から、境目地域の住民の実績抜きには、戦争の凍結が世界史でもまれに長期に維持されたその秘密を解くことはできないのではないか、これだけは確言しても誤りではないと思っています」
と講演を締めくくると、聴講者の皆さんから、ひときわ熱く大きな拍手が湧きあがっていました。
その後の質疑応答では、
「火薬の調達ルートはわかっているのでしょうか」
「国境に面しているところは水俣以外にも阿蘇などあると思うが、鉄砲の数が断トツに多いというのは、薩摩との境であるという点がポイントになるのでしょうか」
「鉄砲衆を募集した際、(五石の免税など)とてもおいしい条件に見えますが、募集には殺到したのか、募集の結果はどうだったのでしょうか」
「水俣だけで100丁以上の鉄砲をどのように入手してきたのでしょうか」
など、次々に質問の手が上がっていました。
参加者からは、
・これまでに学んでいた島原の乱や秀吉の芦北・佐敷城入城に自分が住んでいる地の鉄砲隊などが関わっていたことで、更に興味がわきました。
・地域の歴史を語る、生の資料の分析から、日本史の常識に訂正を迫るような事実が判明したことに感動を覚えました。
・境目の地域特有の在り方を見つけ出して研究して光を当てて下さっている稲葉先生のお話は、とても面白かったです。
・教科書に書かれている歴史ではなく、本当に身近なところにある歴史であることを強く感じられた。
・あっという間の時間でした。戦いのない平和な時を持続するためにも貴重な研究だと思います。又、お話を聞きたいです。
などをはじめ、たくさんの感想をいただきました。
特別企画 「甲冑博士ちゃん」の製作した甲冑を展示
また、この日は特別企画として、テレビ朝日「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」で、武将が好きすぎて、自分で甲冑をつくった「甲冑博士ちゃん」として紹介された研川陽希(といしがわ はるき)さん(水俣市立水俣第二中学校2年生)手づくりの「甲冑」3領を展示。

段ボール製、プラスチック製、金属製など、さまざまな甲冑が並びます。
多くの人が、細部までこだわって製作された甲冑の美しさに見入っていました。

「武将や甲冑師の思いが込められた甲冑が好き」という研川さん。
来場者からの質問や感想に丁寧に対応していました。
甲冑製作への意欲、探求心は高まるばかりだそうです。今後の活躍にも注目です!