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みなまたの民話「山わろの話」

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 わしが十七のときじゃった。佐敷に牛飼いに行って帰り道の話たい。
 山上ンばくりゅどんと二人、良かめた牛の手に入ったもんじゃっで、喜び勇んで鼻唄どん歌いながる、ちょうど湯浦ン三十丁坂ン途中、湧水の出っとこれさしかかったったい。峠も近かで水どん飲んで休憩して行こうち言うて道端ン石に腰ばおろそうとしたとき、道上ン杉山ン中かる突然ガサガサ音がして何か通るごたる気配のしたもんじゃっで、つい若気の至りで足許ン石ば拾うて二、三回投げつけたったい。そして構わずに水どん呑んで登って行くと、暗か杉山ン中からとっけんなか孟宗竹ば叩くごたる音が激しゅう聞こえてくっとたい。魂がった牛は急に気の狂うたごて暴れ出し、綱ば引っこなさんごて騒動するもんじゃっでわざばゆうなって、ばくりゅどんに助けば求むっと、
 「おまいが石ば投げたりすっで、山ん神さんの腹かかしたったい。山ば通っとき淋しゅうなったり、怖か思いばすっときゃ、決して山ん神さんの悪口ば言うたりいたずらばしちゃならんとたい。ことわけば言うて謝れ」
 と、きびしゅう言われたもんじゃっで、
 「山ん神さん、山ん神さん、若気の至りで悪かこつばして済んませんでした。こるから気をつけますで、どうか許して下さい」ち、手を合わせて謝ったったい。途端にあれほど激しかった音も止んで、牛もおとなしゅうなったもんじゃっでほっと胸ばなでおろし、無事家に戻り着いたばってん、あん時ゃ肝ん玉んすっ飛んだばい。
 昔の人ん言わすこたぁ、よう聞かんばいかんなぁち、そん時つくづく思うたこっですたい。
 (注) ばくりゅどん……家畜商。馬喰ともいう。
     めた牛……雌牛
     とつけんなか……思いもつかぬこと
     わざばゆぅなって……怖くなって、恐ろしくなって。

 

水俣市史「民族・人物編」より


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